IoTやAI、クラウドといったデジタル技術の活用が進むと同時に、ITインフラを管理するためのデータセンターの利用が拡大しています。自社がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めるには、データセンターの活用方法を検討することが欠かせません。
特に最近では、震災発生時の同時被災を避けるため、首都圏以外のデータセンターを活用する企業が増えてきています。そこでこの記事では、首都圏以外のデータセンターを利用するメリットやデメリットから、おすすめの事業者までを解説します。
データセンターの現状と問題点
ここでは、データセンターを取り巻く現状とその問題点を解説します。現在は、首都圏に立地するデータセンターの数や利用者数が圧倒的に多いですが、同時にリスクや問題点も指摘されています。
データセンターの総面積のうち約8割が関東地域に集中
富士キメラ総研の「データセンタービジネス市場調査総覧2021年版」をもとに日本政策投資銀行が作成した資料によると、2020年における全国のサーバールームの総面積の内、約8割が関東地域に集中していると報告しています。
これは、経済活動や政府機関の拠点が、東京をはじめとした首都圏に集中していることが主な理由です。ネットワークを通じて情報をスピーディーに、かつ確実に届けるには、高速なデータ通信網や安定的な電力供給体制、トラブル発生時の迅速な駆けつけなどが必要になります。最も条件の良い立地として、首都圏のデータセンターが選ばれることが多いためです。
参考:株式会社日本政策投資銀行「データセンター業界レポート~データセンター業界の最新の動向~」
震災リスク・利用価格上昇などの問題が発生
反面、首都圏のデータセンターを利用するリスクや問題が指摘されています。例えば、政府の地震調査研究推進本部は、今後30年以内に70%の確率で首都直下型地震が発生すると予想しています。仮に地震が発生した場合、首都圏に立地する多くのデータセンターが影響を受ける可能性があるのです。
また、近年は、首都圏のデータセンターの需要が大幅に増加している状況にあります。最近の燃料費高騰も相まって、首都圏のデータセンターの利用価格が上昇している傾向にあるのです。
首都圏以外のデータセンターを利用するメリット
首都圏以外のデータセンターを利用することで、BCP(Business Continuity Plan)を強化できます。BCPとは「事業継続計画」のことで、自然災害やテロ攻撃といった緊急事態の発生に備え、損害を最小限に抑えながら事業を継続・復旧するための計画のことを指します。
特にBCPの観点からは、複数のシステムやバックアップデータを同一環境内で保管するのは好ましくありません。例えば、オフィスにある外付けHDDやNASなどにバックアップデータを分散保管していたとしても、地震や津波などにより元データと同時に消失してしまう可能性があるからです。
BCPを考慮すると、システムやバックアップデータなどは、同時被災しない首都圏以外で分散稼働・保管するのが望ましいといえます。特に、内陸県や地震の発生が少ない地域などを選ぶことで、より強固なBCPを実現することが可能になります。
首都圏以外のデータセンターのデメリット・注意点
ここでは、首都圏以外のデータセンターを利用することに、どのようなデメリットや注意があるのかを解説します。
現地へ駆けつけるのに時間がかかる
1つ目に、現地への駆けつけに時間がかかる点です。首都圏内のデータセンターであれば、トラブルが発生したときでも、早くて数十分以内に駆けつけられます。一方で地方のデータセンターだと、現地へ赴くのに時間がかかるため、一刻を争うトラブル対応で遅れが生じてしまいます。
この問題を解消するには、データセンターが所有する機器をサービスとして利用する「クラウドサービス」を利用する方法が挙げられます。システムメンテナンスや、機能・容量の拡張といった運用業務を、データセンター側へ任せることが可能です。
フロアや機器の設置スペースのみを借りる「ハウジングサービス(コロケーションサービス)を利用する場合は、MSP(マネージドサービスプロバイダ)へ運用・保守・監視を一貫して任せる方法がおすすめです。
回線コストが高くなりやすい
2つ目に、回線の問題が生じることです。データセンターを利用するには、当然ながらオフィスと通信するための回線が必要になります。
地方のデータセンターだと、回線の敷設やデータ伝送にコストがかかることから、月々の回線コストが高くなりやすい傾向にあります。結果として、ラック費用は安いけれども、トータルで見るとそれほど変わらないか、逆に高く付いてしまうことがあるのです。
また、首都圏のデータセンターを利用する場合と比べて、レイテンシ(転送の遅延時間)が大きくなるデメリットもあります。ビジネススピードが重要視される昨今、通信速度が遅れることは、ディスアドバンテージとなりうるでしょう。これらに対しては、回線事業者が提供するデータセンターや、何かしらの回線コスト抑制の対策が取られている事業者を選択する方法がおすすめです。
首都圏以外に立地するおすすめのデータセンター5選
ここでは、首都圏以外に立地するおすすめのデータセンターを5つ紹介します。
【北海道】石狩データセンター
北海道は、その広大な土地から、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用が大いに期待されている地域です。加えて、北海道地方の冷涼な外気を活用した、省エネ性能の高い空調が実現できます。
北海道石狩市には、さくらインターネット株式会社が運営する日本最大級の郊外型データセンター「石狩データセンター」があります。データセンターの配下には活断層がないほか、地盤高が十分にあるため、大規模地震や津波の影響を受けにくいのが魅力です。
また、給電効率の高い「高電圧直流(HVDC)給電システム」を使って電力を供給しています。電力の供給元には、同社が建設した石狩太陽光発電所を採用し、発電から消費までのすべてを同社のみでまかなっているのが特徴です。
URL:https://datacenter.sakura.ad.jp/location/ishikari/
【岐阜県】岐阜県・東濃IDC
岐阜県は、東京都と大阪府のおよそ中間に位置しています。首都圏とほどよい距離で離れているため、比較的交通の便がよいだけでなく、同時被災を受けにくいのが特徴です。岐阜県東濃圏域には、株式会社電算システムが運営するデータセンター「岐阜県・東濃IDC」があります。活断層のない標高250mの位置に立地しているほか、震度7クラスにも耐えうる免震構造を採用しています。
同社が提供するハウジングサービスは、契約するサーバー機器やインターネット回線のベンダー・キャリアに縛りがないのが特筆すべき点です。また、クラウドと組み合わせて運用する「ハイブリッドクラウド」を活用することが可能です。
URL:https://dxnavi.com/lp/idcnavi/index.html
【香川県】Powerico
香川県は、2017年3月までの過去90年間で震度6以上の地震が一度も発生していない、歴史的に地震被害の少ない県です。さらに、半径100km以内に活火山がないため、噴火時の影響を受けにくいのが特徴です。
香川県の県庁所在地、高松市には、株式会社STNetが運営する西日本最大級のデータセンター「Powerico」があります。Powericoは、海岸線からの距離約6kmの内陸、海抜約14.5mに位置しているため、南海トラフ巨大地震発生時の津波の影響をほとんど受けません。
同社は主に、「ハウジングサービス」「ネットワークサービス」「マネージドサービス」の3種類のサービスを提供しています。必要に応じて、ハウジングとクラウドを組み合わせた、ハイブリッド構成で運用することが可能です。
URL:https://www.stnet.co.jp/business/dc/powerico/
【福岡県】QT PRO データセンターサービス
福岡県は、日本の5大都市圏の一つで、経済活動が活発に行われている地域でもあります。飛行機や新幹線を使った交通の便がよいうえ、東京と比べて、比較的電力コストが安いのが特徴です。
株式会社QTnetは、福岡県の3拠点にデータセンターを構えています。すべての建物に免震構造を採用し、大規模地震への対策を講じています。また、無停電電源装置や非常用発電機を常設することで、安定的な電力供給を確保しているのが安心できる点です。
同社は、「ハウジングサービス」「コロケーションサービス」「VDCサービス」の3つをメインで提供しています。オプションで「マネージドサービス」や「ネットワークサービス」を提供するなど、柔軟なサービス体制を整えています。
URL:https://www.qtpro.jp/dc/qtdc/
【沖縄県】沖縄データセンター
沖縄県は、東京から約1,600kmと離れた距離に位置しており、首都圏との同時被災を受けにくいのが特徴です。過去の地震の記録にもとづいて算出する地震地域係数は、全国で最も低い0.7(2019年時点)を記録しているなど、地震の危険度が低い地域でもあります。株式会社キヤノンITソリューションズ株式会社は、沖縄県に高品質なデータセンターを構えています。震度6強に耐えられる免震対策を行ったり、海抜41mに立地させて津波対策をしたりしているので、災害時でも安心です。
また、沖縄県が敷設した光海底ケーブルを活用して回線をつないでいるのが特筆すべき点です。地方のデータセンター活用で発生しやすい、回線の高コスト問題を解消しています。
URL:https://www.canon-its.co.jp/products/idc_okinawa/
災害発生に備えて、首都圏以外のデータセンターを検討してみましょう
この記事では、データセンターの現状や問題点、首都圏以外のデータセンターの活用について解説しました。BCP対策という観点で考えれば、首都圏以外のデータセンターを利用する選択が、最も合理的だと思われます。もちろんデメリットもありますが、それらを軽減・解消できるデータセンターも多く存在します。一度ご検討されてみてはいかがでしょうか。
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