クラウドシステムの発展に伴い、基幹システムのクラウド化を検討している企業が増えつつあります。ITRが実施した「ERP市場2023」の調査では、2021年から2026年までのSaaS型のERP(企業資源計画)市場は、CAGR(年平均成長率)が20%を超えると予測されており、企業のオンプレミスからのクラウド移行が進んでいることが分かります。
基幹システムのクラウド化には、運用コストやリソースの削減、セキュリティ面や最新技術へのアップデートのしやすさなど多くのメリットがあります。しかし、クラウド化に伴う課題もいくつかあるため、事前に理解の上、対策を講じることが重要です。
本記事では、基幹システムをクラウド化する必要性やメリット・デメリット、移行の手順や課題・対策について解説します。
基幹システムのクラウド化とは?
基幹システムのクラウド化とは、企業が従来の自社内システム(オンプレミス)から、外部事業者が提供するクラウドサービスへ移行することを意味します。
例えば、製造業を営む企業が独自の製造管理システムを構築していた場合、同等の機能を持つクラウドサービスに切り替えることが「クラウド化」です。
クラウドサービスには、「SaaS(Software as a Service)」「PaaS(Platform as a Service)」「IaaS(Infrastructure as a Service)」などのカテゴリがあり、それぞれが異なる利用方法を提供しています。
そもそも、基幹システムとは?
基幹システムとは、企業経営に不可欠な業務を管理するシステムです。
一般的な基幹システムには、人事給与、財務会計、販売管理、在庫管理、生産管理などが含まれますが、何を基幹システムとするかは業種やビジネスモデルによって異なります。
基幹システムのように、企業の基幹業務や根幹業務を管理するシステムは、一般的にERP(企業資源計画)システムと呼ばれます。
基幹システムのクラウド化が進む背景
基幹システムのクラウド化が進む背景には、老朽化した基幹システムを再構築する必要があることや、クラウドサービスの機能向上があります。
昨今、多くの企業で基幹システムの老朽化が進んでおり、これがビジネスニーズへの適応を妨げているといわれています。業務プロセスの標準化や自動化、経営情報の可視化の重要性が高まっており、これらに対応するために基幹システムの再構築が求められているのが現状です。
また、企業のBCP(事業継続計画)の一環として、データのバックアップをクラウド上で行う傾向が強まっています。これまでは通信回線のトラブルなどから、オンプレミスがBCP対策に有利と考えられていましたが、最近ではクラウドサービスのデータバックアップ機能なども向上していることから、導入が進んでいます。
基幹システムをクラウド化するメリット
基幹システムのクラウド化は、デジタル移行が進む現代において、業務効率向上や柔軟性の確保など多くの利点が期待されます。ここでは、基幹システムをクラウド化するメリットを5つご紹介します。
サーバー・ハードウェアの導入やメンテナンスが不要
基幹システムをクラウド化するメリットの一つは、サーバーやハードウェアの導入・メンテナンスが不要になることです。
企業は自社で大規模なサーバーインフラを構築する必要がなくなり、コストや手間を大幅に削減できます。これにより、専門的な知識を持つスタッフのリソースを効果的に配分し、コア業務に集中することが可能になります。
オンライン環境なら場所や時間を選ばず使用できる
クラウドサービスは、オンライン環境であれば場所や時間に縛られず、従来の制約を超えてシステムにアクセスできます。社員はオフィス外からも業務に参加できるため、リモートワークの普及など柔軟性を高めた新しい働き方を実現しやすくなることもメリットといえます。
アップデートの自動化で技術の進化に迅速に対応できる
クラウド化された基幹システムでは、ソフトウェアやプログラムのアップデートが自動的に行われるため、常に最新の技術や機能を利用することが可能です。急速に進化するテクノロジーへ迅速に対応できるため、競争の激しいビジネス環境において先行者利益を享受できるでしょう。
セキュリティ対策を強化できる
クラウドサービスのプロバイダーは、セキュリティに関する専門知識を保有しており、クラウド環境のセキュリティ対策の強化に努めている業者も多くみられます。そのため、基幹システムをクラウド化することで、データ漏洩やサイバー攻撃への対策の強化も期待できます。
自動バックアップでデータを保全しやすい
基幹システムをクラウド化するメリットとして、自動バックアップが容易に実現できる点もあげられます。クラウドサービスプロバイダーは定期的にデータのバックアップを行っているため、、災害発生時やデータ損失の際にも迅速な復旧が可能です。
基幹システムをクラウド化するデメリット
基幹システムをクラウド化する際には、デメリットも考慮する必要があります。ここでは、クラウド化のデメリットを3つ確認しておきましょう。
初期費用は抑えられるがランニングコストが発生する
クラウド化の初期投資は一般的に低いものの、長期的にはランニングコストが発生します。
サービス利用に伴う定期的なコストが蓄積することで、総費用が増大する可能性があるため、事前に費用を検討し、将来の経済的な影響を考慮する必要があります。
オフライン環境では使用できない
クラウドシステムは、基本的にオンライン環境での利用を前提としています。インターネット接続が不安定な場合やオフライン状態の際には、システムを使用できません。業務において即応性が求められる場面では、リスクとなり得る点には注意が必要です。
カスタマイズ性が低い場合がある
基本的にクラウドサービスは標準化された形で提供されるため、企業や業界の特定のニーズに完全に対応することが難しいケースがあります。カスタマイズ性が低いと、独自の業務プロセスや要件に柔軟に対応できず、業務が制約される可能性もあります。
基幹システムをクラウド化する手順
実際に基幹システムをクラウド化する際には、次の4つの手順で進めると良いでしょう。
1. 移行プロジェクトの担当者・チームの選定
はじめに専任のチームを組織し、移行プロセス全体を推進するリーダーを選定します。明確な役割分担を行い、リーダーには、経験豊富なプロジェクトマネージャーやクラウドの専門知識のある人材を配置すると良いでしょう。
2. 現状の業務の棚卸し・要件定義
次に、現状の業務プロセスの内容の棚卸しを行った上で、クラウド化に求められる具体的な要件を定義しましょう。既存基幹システムの課題や改善の余地を明らかにすることで、新しいクラウドシステムの導入に際しての具体的な要件を明確化できます。
3. 新しい業務フローの設計・構築
要件に沿って、新しい業務フローを設計・構築します。クラウド環境への移行に際して、業務プロセスの最適化や効率向上を図ることが求められます。
また、ユーザーのトレーニングプログラムも含め、スムーズな運用開始に向けた準備を整えましょう。
4. システムの移行作業と運用開始
新しい業務フローに基づき、実際の移行作業を開始します。具体的には、データ移行やシステムの設定変更、ユーザーへのサポートなどを行っていきます。
テストや試用期間を経て、新しいクラウドシステムが本稼働することで、基幹システムからクラウドへの移行が完了となります。
基幹システムをクラウド化する際の課題と対策
基幹システムのクラウド化は、効率向上や柔軟性の向上をもたらしますが、同時に課題も発生します。ここでは、クラウド化に伴う課題とその対策について解説します。
セキュリティへの懸念は、クラウドセキュリティ認証で確認する
基幹業務をクラウドに移行する際には、セキュリティ面を考慮する必要があります。特に、機密性の高いデータをクラウド上で扱う場合、セキュリティリスクが企業にとって深刻な問題となり得ます。
対策として、信頼性の高い認証機関からの認定を取得したサービスを選定し、セキュリティポリシーやアクセス制御の確立を怠らず、運用を徹底的に監視することが重要です。
サービス選定の際は、可用性の高いシステムを選ぶ
多数のクラウドサービスから自社に適したものを選定するためには、サービスプロバイダーの信頼性やサービスレベル契約(SLA)を確認し、可用性が高く、障害時にも迅速に復旧する体制を整えたサービスを選ぶことがポイントです。
また、冗長化やフェイルオーバーなどの技術的な要素にも注目し、ビジネスにおいて最小限の中断を保つようにしましょう。冗長化とは、障害が発生しても連続的な稼働を確保するために、予備のサーバーやネットワークを組み込んでシステムを構築・運用する手法です。フェイルオーバーは、稼働中のシステムに問題が発生し停止すると、自動的に待機システムに切り替える仕組みを指します。
社内に浸透するよう、研修や勉強会を開催する
社内での新しいシステムへの適応が不十分な場合、クラウド化の利点を最大限に引き出すことが難しくなります。従業員のクラウドシステムの理解を促進できるよう、研修や勉強会を開催するなど、組織全体でクラウドシステムを活用する文化を醸成することが大切です。
まとめ
業務プロセスの標準化や自動化、経営情報の可視化の需要増に伴い、基幹システムの再構築・クラウド化が求められています。基幹システムのクラウド化により、運用負担・管理コストが軽減され、アップデートの自動化で技術の進化への迅速な対応が可能です。
ただし、クラウド型基幹システムはオフラインでの利用が難しく、ランニングコストが発生し、カスタマイズ性がオンプレミス型に比べて低いといった注意点もあります。導入時には、現状の業務の棚卸しや要件定義を行い、新しい業務フローを設計・構築することや、詳細な計画やリアルタイムなモニタリング、現場教育を通じた活用を心がけましょう。
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