2つ以上の同じ種類のクラウドを使用する「マルチクラウド環境」では、複数のクラウドベンダーやソリューションのメリットを享受できる一方で、管理の複雑さも増します。そのため、適切なクラウド統合管理が不可欠です。
本記事では、マルチクラウドのクラウド統合管理の概要と、クラウド統合管理の課題や対策、管理する際のポイントを解説します。
マルチクラウドのクラウド統合管理とは?
マルチクラウドのクラウド統合管理とは、複数のクラウドサービスやプロバイダーをまとめて管理し、効果的に運用することです。
適切な統合管理によって、企業や組織のITインフラストラクチャ(下部構造)内でのクラウドの利用を調整することで、複数のクラウドプロバイダーの利点を組み合わせて活用できるようになります。具体的には、耐障害性や柔軟性、コスト最適化、制御性の向上などが期待できます。
そもそも、マルチクラウドとは
マルチクラウドとは、同じ種類のクラウドサービスを複数組み合わせて、最適なクラウド環境を構築する運用形態を指します。
マルチクラウドでは、複数のクラウドベンダーやソリューションの長所を柔軟に組み合わせることが可能で、企業のニーズや特性にあわせてカスタマイズしやすい点が魅力です。また、特定のクラウドベンダーに依存することで生じる「ベンダーロックイン(他のサービスの利用が困難になること)」も回避できます。
クラウドは、大きく「プライベートクラウド」と「パブリッククラウド」の二つに分けられます。マルチクラウドは、「2つ以上のパブリッククラウド」や「2つ以上のプライベートクラウド」など、複数の同種のクラウドで構成されるものです。
なお、マルチクラウドに似た用語として「ハイブリッドクラウド」がありますが、これはパブリックとプライベートのクラウドを組み合わせる運用形態です。
マルチクラウドのクラウド統合管理における7つの課題と対策
マルチクラウドを利用することで多くのメリットがありますが、クラウド統合管理を行う際には課題も存在します。ここでは、マルチクラウドのクラウド統合管理における7つの課題と、その対策について解説します。
リソースやコスト管理の複雑さ
まず、リソースやコスト管理の複雑さがあげられます。複数のクラウドプロバイダーにまたがるリソースの管理では、異なるツールやインターフェース、APIを使用することが求められるため、作業が複雑化し、時間と労力がかかります。
また、複数のプロバイダーにわたる支出の管理が適切に行われていない場合、クラウドプロバイダー間でリソースが重複し、使用率の低下や不必要な支出が発生する恐れがあります。
これらの課題の対策として、管理ツールや統合されたプラットフォームを導入し、複数のクラウドプロバイダーにわたるリソース管理を一元化することも一つの方法です。
さらに、コスト管理を強化するためには、予算の設定と監視を定期的に行い、リソースの最適化を継続的に実施する必要があります。
統合の複雑さ
異なるクラウドで実行されているアプリケーションやサービスを統合する際には、大規模なプロセスが必要であり、相互連携の可否によっては難易度が高くなる可能性があります。
特に、大量のデータを転送する場合は時間とコストがかかることや、プロバイダーごとにデータ転送の速度やフォーマット、プロトコルが異なるケースもあります。また、既存のシステムからの移行に際し、組織内で新しいワークフローへの抵抗を克服することも必要です。
データ転送に関する課題を解決するためには、高速なネットワーク接続やデータ圧縮技術の活用、プロバイダー間の相互運用性の向上が求められます。さらに、運用体制の構築のため、組織内でのコミュニケーションや教育を強化し、統合への理解を促進することが重要です。
可視性と監視の難しさ
マルチクラウドのクラウド統合管理を進めるうえで、可視性と監視の難しさも課題の一つです。
複数のクラウドリソースのパフォーマンスや稼働状態、セキュリティなどをリアルタイムで把握し続けることは困難といえるでしょう。このような監視体制の脆弱さは、問題の発見や対応の遅延を招く恐れがあります。
対策として、統合された監視プラットフォームやツールを導入し、マルチクラウド環境全体の可視性を確保するという方法があります。さらに、リアルタイムでの監視やアラート機能の強化により、問題を迅速に検知し対処することが重要です。
複数のセキュリティポリシーへの対応
データセキュリティとコンプライアンスは、各クラウドプロバイダーで異なります。ポリシー違反とならないためにも、複数のセキュリティポリシーを整理し、データの保護や暗号化、アクセス制御などを慎重に調整する必要があります。
これには、社内で統一されたセキュリティモデルやコンプライアンスフレームワークを策定し、各クラウドプロバイダーに適用することが有用です。データの保護や暗号化、アクセス制御に関するポリシーを設定・実施することで、整合性を維持しやすくなるでしょう。
継続的な管理と改善が必要
マルチクラウド環境のパフォーマンスの最適化を目指すためには、継続的な管理と改善が求められます。モニタリングツールなどを活用し、定期的にクラウド環境全体のパフォーマンスを監視・分析したうえで改善策を講じることが必要です。
具体的には、負荷の分散や、トラフィックごとの経路を確立するために、自動化されたロードバランサー(複数のサーバーに負荷を分散させる装置)や、ルーティングポリシーの設定を検討するといったことがあげられます。
また、必要に応じてリソースを拡張するためのスケーリング戦略を策定し、需要の変化に迅速に対応できるように準備しておくことが大切です。
専門知識やスキルが求められる
マルチクラウド環境を統合管理する際には、各クラウドプロバイダーの独自のテクノロジーに関する専門知識や、多様なスキルが求められます。そのため、自社のITチーム内でスキルの不足が生じる「スキルギャップ」の課題への対策も必要です。
この問題に対処するためには、継続的なトレーニングとスキルアップの取り組みが欠かせません。具体的な対策としては、ITチームのメンバーに対し、各クラウドプロバイダーの基本的なトレーニングの実施や、認定プログラムへの参加を奨励するといった方法があります。
また、新たなテクノロジーやベストプラクティスに関する情報を定期的に共有することや、外部の専門家・コンサルタントを活用し、スキルの不足を補うことも検討すると良いでしょう。
マルチクラウドのクラウド統合管理を行う際の3つのポイント
マルチクラウド環境の効果的な活用は、適切なクラウド統合管理ができるかどうかに左右されます。ここでは、マルチクラウドのクラウド統合管理を行う際のポイントを3つご紹介します。
①マルチクラウドの活用方法を明確にする
クラウド統合管理を行う際に最初に行うべきことは、マルチクラウドの活用方法を明確にすることです。どの業務をクラウド化するかを決定し、各クラウドの利用目的を明確にします。
例えば、次のような活用方法が想定されます。
- クラウドサービスの利用を分散し、障害時のリスクを軽減する
- 24時間365日運用のシステムにおける、トラブル発生時の対応と原因特定
- バックオフィス業務の簡素化
- 組織ごとに個別のシステムを運用していたものを、社内システムとして統合する
運用や利用目的が明確でないままクラウドを導入すると、無駄なクラウドの追加やコスト増加、運用の複雑化を招く恐れがあります。そのため、まずはクラウドの利用目的と運用に関する計画を立てておくことが重要です。
②マルチクラウドの運用体制を整備する
マルチクラウドの統合管理を行う場合、運用体制を整備することが必要です。
具体的には、クラウド管理の担当者や担当する部署を定めることや、トラブルシューティングや問題解決のプロセスの確立などです。また、運用体制を柔軟に調整し、チーム間のコミュニケーションを強化するなど、変化に迅速に対応できるような体制作りも重要です。
これにより、マルチクラウド環境を効率的に運用し、サービスの安定性や品質を確保することができます。
③管理ツールを活用する
マルチクラウドを効率的に統合管理するためには、適切な管理ツールを活用することもおすすめです。管理ツールを活用することで、複数のクラウドプロバイダーやサービスを一元管理し、効率的な運用を実現することができます。
マルチクラウドの管理ツールは、複数のベンダーから提供されており、それぞれのシステムは異なるクラウドサービスに対応しているため、自社に適した管理ツールを選択することが重要です。
管理ツールを選ぶ際のポイントは以下の通りです。
- 対応範囲と機能
- 柔軟性と拡張性
- セキュリティとコンプライアンス
マルチクラウド環境に対応していることはもちろんですが、必要な機能を提供しているかどうかも確認しましょう。リソースの監視や管理、セキュリティポリシーの統合、コスト管理など、ビジネスニーズに適した機能を持つツールを選ぶことが必要です。
また、マルチクラウド環境は変化しやすいため、新たなクラウドプロバイダーやサービスの追加が容易であり、カスタマイズが可能なツールを選ぶことが望ましいです。さらに、セキュリティとコンプライアンスに関するサポートや、監査機能が備わっているかどうかも確認すると良いでしょう。
まとめ
マルチクラウド環境では、同じ種類のクラウドを2つ以上利用することで、複数のクラウドベンダーやソリューションの利点を享受できます。しかし一方で、管理の複雑さや複数のセキュリティポリシーへの対応など課題もあるため、適切なクラウド統合管理が求められます。
本記事でご紹介した課題と対策、クラウド統合管理のポイントを参考に、マルチクラウドを最大限に活用するための環境を構築しましょう。
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